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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)4046号 判決 1990年1月30日

原告(被参加人・反訴被告) 堀夕美

原告(被参加人) サンチャゴ・ヴァルデマル

右両名訴訟代理人弁護士 佐藤公輝

参加人(反訴原告) 株式会社 黒川建設

右代表者代表取締役 黒川鴻

右訴訟代理人弁護士 吉川孝三郎

右訴訟復代理人弁護士 飯田正剛

被告(被参加人)(脱退) 株式会社 シャトーテル

右代表者代表取締役 黒川鴻

主文

第一本訴請求について

一  参加人は、原告堀夕美に対し金三〇万円、サンチャゴ・ヴァルデマルに対し金三〇万円及び右各金員に対する昭和五六年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

第二参加請求について

一  原告堀夕美と参加人との間において、別紙物件目録(二)記載の建物に備付けの冷房、暖房、給湯の各機械設備、そのメインパイプ及びメーター、並びに同建物一階中別紙図面赤斜線部分約五二・七六平方メートルが、参加人の所有であることを確認する。

二  原告堀夕美と参加人との間において、参加人の同原告に対する昭和五五年二月一二日の給湯停止を理由とする慰謝料の損害賠償債務が金三〇万円及びこれに対する昭和五六年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。

三  原告サンチャゴ・ヴァルデマルと参加人との間において、参加人の同原告に対する昭和五五年二月一二日の給湯停止を理由とする慰謝料の損害賠償債務が金三〇万円及びこれに対する昭和五六年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を超えて存在しないこと、及び右を理由とする金七〇万円の逸失利益の損害賠償債務が存在しないことをそれぞれ確認する。

四  参加人の原告らに対するその余の請求を棄却する。

第三反訴請求について

反訴被告堀夕美は、反訴原告株式会社黒川建設に対し、金三六九万二九五四円及び内金一七〇万二六八七円に対する昭和五七年五月二七日から、内金一九九万〇二六七円に対する昭和六〇年三月一四日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第四訴訟費用について

訴訟費用は、本訴請求、参加請求、反訴請求を通じて、これを六分し、その五を原告(被参加人・反訴被告)堀夕美の負担とし、その一を参加人(反訴原告)株式会社黒川建設の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 原告堀夕美と参加人との間において、別紙物件目録(二)記載の建物の共有部分に備付けの冷房、暖房、給湯の機械設備、そのメインパイプ及びメーター並びに同建物一階中駐車場部分(別紙図面斜線部分約五二・七六平方メートル)につき、原告堀夕美が共有持分権を有することを確認する。

2 参加人は、原告堀夕美に対し金六〇万円、原告サンチャゴ・ヴァルデマルに対し金一三〇万円及び右各金員に対する昭和五六年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は参加人の負担とする。

4 第2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する参加人の答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(参加請求)

一  請求の趣旨

1 主文第二、一項同旨

2 原告堀夕美と参加人との間において、参加人の同原告に対する昭和五五年二月一二日の給湯停止を理由とする慰謝料金六〇万円の損害賠償債務が存在しないことを確認する。

3 原告サンチャゴ・ヴァルデマルと参加人との間において、参加人の同原告に対する昭和五五年二月一二日の給湯停止を理由とする慰謝料金六〇万円及び逸失利益金七〇万円、合計金一三〇万円の損害賠償債務が存在しないことを確認する。

4 訴訟費用は原告らの負担とする。

二  参加請求の趣旨に対する原告らの答弁

1 参加人の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は参加人の負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 主文第三同旨

2 訴訟費用は反訴被告堀夕美の負担とする。

3 仮執行宣言

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

1 反訴原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 原告堀夕美は、昭和五一年一〇月三一日別紙物件目録(一)及び(三)記載の土地建物を訴外綜合装備株式会社から代金三一〇〇万円で買受け、昭和五二年二月ころから夫である原告サンチャゴ・ヴァルデマルと共に居住している。

2 脱退被告株式会社シャトーテル(以下「シャトーテル」という。)は、集合住宅の建設、分譲、不動産の売買等を業とする会社であるが、昭和五〇年ころ別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件マンション」という。)を建築し、冷暖房、給湯付の土地付分譲マンション「シャトー青山第二」として販売した。

また、シャトーテルは、本件マンションの区分所有者との間で管理委託契約を締結し、本件マンションの共用部分の管理業務を行っている。(但し、右分譲、管理委託契約当時のシャトーテルの商号は「株式会社黒川建設」(以下「旧黒川建設」という。)であった。)。

3 本件各設備の所有関係

(一) 本件各設備の構造

(1) 本件マンションの冷暖房、給湯の機械設備(ボイラー、メインパイプ、メーター等)は、その付属設備を含めて(以下、これらの機械設備を「本件各設備」という。)、共用部分たる機械室に設置されている。右ボイラー等機械設備への給油は、一階駐車場部分の給油口からなされる。

(2) 冷房設備である冷却塔、冷却水ポンプ、送風機(地下機械室への給気用)は本件マンションの屋上の建物内に備え付けられ、右各機械のコントロール機器は七階廊下の壁面に設置されている。冷却塔は五〇トンの重量のものであるから、建物の構造も当然その重量に耐えられるものとして特別の設計がなされているはずである。

(3) 給湯のための水、冷却用水及び一般給水は、同一の地下受水槽の水を揚水機により揚水して使用している。

(4) 右各設備と配管は、本件マンションのすべてに網羅されており、建物共用部分に組み込まれ、本件マンションの天井、壁等に設置された導管により各区分所有者の専有部分たる各室に冷暖房及び湯が供給されている。即ち、本件マンション全体が本件各設備の存在を前提として設計されているのである。

(5) 以上のとおり、本件マンションは、シャトーテルのパンフレット(甲第三号証)にもあるとおり、完全な集中冷暖房給湯設備付のマンションとして設計され、本件マンションと各設備は一体化しているのであり、本件マンションから右各設備を撤去することは技術的もしくは経済的観点から不可能に近いものである。

よって、本件各設備は、建物区分所有法第二条第四項所定の建物付属物に該当する。

(二) 本件各設備の機能

本件マンションは、集中冷暖房給湯システムを備えたものとして設計施工され、これを宣伝のポイントとして販売されたものである。右各設備は、マンションの居住者にとっては快適で便利な日常生活を営むために必要不可欠なものである。これらの設備の存在により本件マンションの交換価値が付加され、大きいものとなっているのである。

仮に本件各設備がシャトーテルの所有であるとすれば、これを使用するか否かは各居住者の自由となり、使用料金は各居住者と被告との契約により任意に定め得ることになる。しかし、これでは本件マンションの管理上多くの不都合が発生する。シャトーテル側からも居住者に対し、冷暖房等の供給契約を解除することがあり得る。

しかし、本件マンションの各専有部分は、集中冷暖房等を前提として造作されており、冷暖房等の供給を拒否された場合、居住者の日常生活に著しい困難と重大な支障を生じさせることになるし、万一管理会社が倒産した場合、事態は更に深刻なものとなる。

以上のとおり、本件各設備をマンション分譲業者であるシャトーテルの所有に属するものとすることは、その機能上からも管理に関する問題を円滑に処理する上でも不都合である。

(三) したがって、右冷暖房、給湯の機械設備は、そのメインパイプ、メーターを含めて、その構造、機能のいずれから見ても、本件マンションの建物の付属物たる法定共用部分であり、原告堀夕美を含む本件マンションの区分所有者の共有に属するものである。

4 本件駐車場(ピロティ)部分の所有関係

(一) (構造)本件マンション一階の別紙図面斜線部分(以下「本件駐車場部分」という。)は、正面奥のみが壁で仕切られているが、他の三方は吹き抜けであり、現実には駐車場として利用されている。左側は高さ六〇~七〇センチメートルの草木植栽用のコンクリート容器で仕切られているのみで、左側端は一部天井がない状態である。また、右側は建物の外側にモルタル仕上げのブロック仕切りがあり、建物外側の駐車場部分には半透明のプラスチック波板製の屋根がかけられ、建物の外側すなわち土地部分まで駐車場として利用されている。

本件駐車場部分の床面にはコンクリートが打たれているが、コンクリート面は前面の敷地と連続しており、土地との区分がない。壁もシャッター等も設置されておらず、建物本体及び敷地との関連からも本件駐車場部分の範囲を明確には確定できない。

よって、本件駐車場部分は構造上の独立性のないものであることは明らかである。

(二) (利用)本件駐車場部分の壁面及び天井には無数の配管がむき出しで設置されており、共用設備である配管の設置場所として有効に利用されている。右配管の管理補修は、本件駐車場部分に立ち入らなければできない。

また、本件駐車場部分は本件マンションの区分所有者の駐車場として必要不可欠なものであり、この部分に本件マンション居住者以外の車を駐車させることはあってはならない。

更に、本件駐車場の右側は本件マンションの居住者の駐輪場として使用されており、この場所以外に適当な駐輪場は存在しない。

このように、本件駐車場部分及びこれに接続する右側の駐輪場部分は、配管設置場所及び本件マンションの居住者のための駐車場、駐輪場としてのみ利用されるべきものであり、他の目的に利用すべき場所ではない。

(三) 以上、本件駐車場部分は、その構造上、利用上のいずれからも、法定共用部分として、本件マンションの区分所有者の共有に属する部分である。仮に、法定共用部分でないとしても、当該部分は、分譲時のパンフレット(甲第三号証)において「ピロティ」と明示されており、管理規約(乙第一号証)第二条においてピロティは共用部分と規定されているのであるから、規約共用部分である。

5 ところが、シャトーテルは、右冷暖房、給湯の機械設備及び本件駐車場部分がシャトーテルの所有であると主張して、各区分所有者から冷暖房、給湯について使用料を徴収し、また駐車場部分を利用している者から駐車料金を取得している。

6 給湯停止関係

(一) シャトーテルは、原告堀夕美が冷暖房料金を支払わない(給湯料金は支払っている。)ことを理由に、昭和五五年二月一二日ころ突然原告らの居宅入口に設置してある給湯管の一部及びメーターを取り外すなどして給湯を停止した。

やむなく原告堀夕美は、調停の申立(東京簡易裁判所昭和五五年ノ第二七三号)をしたところ、シャトーテルは同年八月一日ころ給湯を開始したが、この間原告らは自宅での入浴ができず、シャワーも使えず、炊事、洗面にも著しい支障を来した。

(二) シャトーテルの右不法行為により、原告らが受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、それぞれ金六〇万円が相当である。

(三) 原告サンチャゴ・ヴァルデマルは、大学の講師、商社及び放送局の嘱託などの仕事のかたわら、夜は自宅で翻訳の仕事をし、翻訳により一週間平均二八万円の収入を得ていた。ところが、シャトーテルの右給湯停止のトラブルの対応と心労のため、昭和五五年二月一二日ころから同年三月初旬ころまでの約三週間は自宅での翻訳の仕事は殆ど断らざるを得なくなり、少なくとも金七〇万円の得べかりし利益を失った。これはシャトーテルの不法行為による損害である。

7 参加人は、昭和五七年一月一一日、シャトーテルから本件冷暖房、給湯の機械設備等、及び駐車場部分の所有権もしくは利用権を譲り受けたとし、同年一月ころ本件マンションの管理規約第六条による管理者の地位及び本件訴訟上の債務を承継した。

8 よって、原告堀夕美は、脱退被告シャトーテル(シャトーテル脱退後は参加人)に対し、本件マンションの本件駐車場部分、冷暖房、給湯の機械設備等につき原告堀夕美が共有持分権を有することの確認と、シャトーテルの不法行為に基づく慰謝料として金六〇万円の支払を、原告サンチャゴ・ヴァルデマルは参加人に対し、シャトーテルの不法行為に基づく慰謝料金六〇万円及び逸失利益金七〇万円の合計金一三〇万円の支払を、また、原告らの金員請求については、それぞれ本件訴状送達の翌日である昭和五六年八月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の事実は認める。

3 請求原因3(一)のうち、(1)、(3)及び(2)のうち冷却塔、冷却水ポンプが屋上に設置されていることは認め、その余の請求原因3の各事実は否認する。

同(2)の送風機は、ペントハウス内に設置されており、コントロール盤は、七階ではなく屋上出入口脇の壁面に設置されている。

本件マンションの冷暖房、給湯の機械設備は、構造上、利用上の共用部分には該当しない。現に、本件マンションは、旧シャトー松尾(マンション)の建替増築マンションであるところ、旧松尾時代からの区分所有者のうち六戸は、その希望により各自戸別の冷暖房をしており、本件マンションの冷暖房設備を利用しておらず、本件マンションと各設備が一体化しているということはない。

シャトーテルに商号変更前の旧黒川建設は、昭和五一年四月一四日、現在原告堀夕美所有となっている本件マンションの四〇六号室を訴外綜合設備株式会社に売却したが、その際、冷暖房、給湯の機械設備は売買の対象である法定共用部分から除外し、旧黒川建設の所有物として留保したのであり、本件マンションの管理規約においても、これらが旧黒川建設の所有物であることが明示されている。参加人はシャトーテルからこれら設備に関する権利を承継取得したものである。

4 請求原因4のうち、(一)の構造に関する外形的事実及び同(二)のうち本件駐車場部分の壁面、天井に配管が設置されていることは既ね認め、その余は否認する。

本件駐車場部分は、三方が壁で囲まれて(その隔壁としての構造、材質はともかく)、他の区分所有建物部分と隔絶され、構造上独立している。すなわち、他の専有部分を通らなければ外部に立入りできないということはなく、その範囲も明確である。

また、独立して駐車場としての用途に供することができ、利用上も独立している。旧黒川建設は、右駐車場部分を本来居住部分として建築確認を得たものであり、共用部分としての分譲の対象から除外して旧黒川建設(シャトーテル)の所有に属するものとして、いつでも区分所有分として販売できるよう留保していたが、その後用途を変更して駐車場として賃貸するなどして利用してきたものであり、そのことは、各区分所有者において了解済みのことであった。これを、現在参加人がシャトーテルから譲渡を受けて所有しているものである。

5 請求原因5の事実は認める。

6 請求原因6の(一)のうちシャトーテルが原告堀夕美に対する給湯を昭和五五年二月一二日ころから同年七月末ころまで停止したことは認め、その余の事実は争う。

請求原因6の(二)及び(三)の事実は不知もしくは争う。

7 請求原因7の事実は認める。

三  抗弁(給湯停止関係)

1 建物の区分所有等に関する法律に基づく本件マンションの管理規約上、旧黒川建設(のちシャトーテル)が管理者と定められ、管理者に管理を委任した区分所有者が、同規約所定の管理費及び冷暖房、給湯料金の支払を一回以上遅延した場合は、管理者は暖房、給湯等の供給を停止することができる旨定められている(管理規約第一七条)。

2 原告堀夕美は、従前から冷暖房費、管理費を滞納することが多く、昭和五五年一月の時点でも合計金六五万円余を滞納していた。そこでシャトーテルは、再三その支払を求めていたが、支払がなかったため、昭和五五年一月二一日に原告堀夕美に対し、同月末日までに支払わなかった場合には給湯を停止する旨の警告を発した上で、支払がなかったため同年二月一二日に給湯を停止したものである。したがって、シャトーテルの給湯停止の行為にはなんら違法性がない。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は認める。但し、本件管理規約は無効なものであり、原告らの承認できないものである。

2 抗弁2の事実は概ね認める。但し、違法性がないとの主張は争う。

五  再抗弁

1 管理費等支払拒絶の正当性(反訴に対する抗弁1のとおり。)

2 管理規約の無効

本件マンションの居住者にとって給湯は必要不可欠のものであり、給湯を停止されると入浴もシャワーを使うことも不可能となって、人間としての最低限の文化的生活を営む権利を奪うことになる。また、冷暖房については代替の機器を用意することは可能であるが、そのための出費を要する上、本件マンション購入時に予定した通常の快適な生活を奪われることになる。したがって、給湯等を停止されれば、正当な理由があって管理費等の支払を拒絶している区分所有者も事実上支払を強制されることになる。これは、違法な自力救済と同等の効果をもつ。このような、管理費等の支払遅滞者に対して給湯等を停止しうる旨を定める本件管理規約一七条の規定は、公序良俗に反し、無効である。

3 権利濫用

仮に、右条項が有効であるとしても、正当な理由を示して話し合いを求めつつ管理費等の支払を拒絶している原告らに対して、前記2のような問題を含む管理規約の条項を根拠として給湯を停止したシャトーテルの行為は、権利の濫用である。

なお、本件給湯停止の発端となった冷暖房の利用問題については、原告堀夕美は、昭和五九年一〇月中旬ころ同原告所有の本件四〇六号室の建物内に設置されていた冷暖房供給設備を撤去して、以後冷暖房の供給を受けない態度を明確にしたところ、参加人もこれを黙認して同年一一月以降は、冷暖房費の請求をしなくなった。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実中、3の後段のなお書きの事実は認め、その余の再抗弁事実はいずれも争う。

(参加)

一  参加の理由

1 旧黒川建設(商号変更後脱退被告シャトーテル)は、原告堀夕美主張の本件マンションの冷暖房、給湯の機械設備等及び本件駐車場部分を本件マンション建築当初から所有していたところ、脱退被告シャトーテルは、原告らの脱退被告に対する本訴係属中の昭和五七年一月一一日その所有権もしくは利用権を参加人に譲渡し、また、参加人は同年一月一日ころ、脱退被告シャトーテルから本件マンションの管理規約第六条による管理者の地位及び本件訴訟上の債務を承継した。

2 よって、参加人は、本訴請求の目的たる権利、義務の承継人として、原告堀夕美に対し、本件マンションの冷暖房、給湯の機械設備等及び本件駐車場部分が参加人の所有であることの確認並びに原告ら参加人に対する各損害賠償債務が存在しないことの確認を求める。

二  参加の理由に対する答弁

1 参加の理由1のうち、冷暖房、給湯の機械設備及び本件駐車場部分の所有関係は否認し、脱退被告シャトーテルから参加人への権利譲渡及び参加人による承継の事実は認める。

2 参加の理由2は争う。

(反訴)

一  請求原因

1 シャトーテルは、マンションの管理等を業とする会社であり、昭和五一年以来本件マンションの各区分所有者から管理規約に基づき管理の委任を受け、反訴被告堀夕美からも、本件マンションの四〇六号室について昭和五一年一〇月三一日に同反訴被告が区分所有権を取得して以来、管理の委任を受けていた者である。

反訴原告は、シャトーテルの右管理者の地位を承継して、昭和五七年一月一日から、反訴被告堀夕美を含む本件マンションの各区分所有者から管理の委任を受けている者である。

2 反訴被告堀夕美は、昭和五一年一〇月三一日以来本件マンションの四〇六号室を区分所有し、遅くとも昭和五二年二月ころから居住している。

3 本件マンションには建物の区分所有等に関する法律に基づく管理規約が存在し、同規約第一二条に基づき区分所有者である反訴被告が支払うべき管理費は、昭和五六年三月までは一か月当たり一万六〇〇〇円、同年四月分以降は一か月当たり一万六九〇〇円である。

ところが、反訴被告は、シャトーテル時代の昭和五二年六月分から昭和五六年一二月までの間において、別表(一)記載のとおり合計金五七万八九〇〇円の管理費を支払わない。また、反訴原告時代の昭和五七年一月分から昭和五九年一〇月分までの間の管理費は別表(二)記載のとおり合計金六〇万三六七四円である。

4 本件マンションの区分所有者たる反訴被告は、管理規約第一六条に基づき、反訴被告が所有する区分所有建物の敷地の共有持分に応じて管理会社が立替支払をした敷地の固定資産税等相当額を管理会社に支払うべき義務がある。

ところが、反訴被告は、シャトーテル時代の昭和五二年一一月支払分の金二二六二円、昭和五三年一二月支払分の金一万八一三六円、昭和五四年一〇月支払分の金一万九九五一円、昭和五五年一一月支払分の金二万〇八一九円、昭和五六年一二月支払分の金二万〇八一九円、合計金八万一九八七円を支払わない。また、反訴原告時代の昭和五七年一二月支払分は、金二万二九〇一円である。

5 反訴被告は、本件マンションの管理会社であるシャトーテルないし反訴原告との間で、管理会社が所有する給湯設備、冷暖房設備により、湯と冷暖房の供給を受ける契約を締結していた。右各契約において、一か月当たり暖房費は金三万六〇〇〇円、冷房費は金一万七〇〇〇円の定額制であり、給湯料金は一か月当たりの基本料金二五〇〇円、使用料一立方メートル当たり金九五〇円によって算出するものと定められ、それぞれ前月分の使用料金を翌月請求し、その月の二七日限り支払う約定であった。

ところが、反訴被告は、別表(一)記載のとおり、シャトーテル時代の昭和五五年二月請求分から昭和五六年一二月請求分の間において給湯料金合計金一二万六〇六五円、昭和五三年三月請求分から昭和五六年一二月請求分の間において冷暖房費合計金九一万五七三五円を支払わない。また、別表(二)記載のとおり、反訴原告時代の昭和五七年一月請求分から昭和五九年一〇月請求分までの間の給湯料金は、合計金二八万六四〇〇円、冷暖房費は合計金七五万七二六七円である。

6 反訴原告は反訴被告に対し、その所有する本件マンションの駐車場を賃料一か月二万二〇〇〇円で賃貸しているところ、昭和五七年一月一日から昭和五九年一〇月末日までの賃料は合計金七四万八〇〇〇円である。

7 反訴被告は、本件マンションの管理規約に基づき、反訴原告が東京都水道局に支払った水道料金のうち、反訴被告の前月使用料に応じて反訴原告が請求する額を毎月二七日限り支払う義務があるところ、昭和五七年一月一日から昭和五九年一〇月末日までの間に支払うべき水道料金は、別表(二)記載のとおり合計金六万八一四五円である。

8 反訴原告は、反訴被告の注文により、昭和五七年一月九日、台所排水管の修理工事をした。その代金は三〇〇〇円である。

9 シャトーテルは、その管理時代の反訴被告に対する前記固定資産税等立替金八万一九八七円及び別表(一)記載の管理費五七万八九〇〇円、給湯料金一二万六〇六五円、冷暖房費九一万五七三五円の合計金一七〇万二六八七円の債権を、昭和五七年五月八日反訴原告に譲渡し、同月一二日反訴被告に対しその旨通知した。

10 反訴原告管理時代の反訴被告に対する前記管理費、固定資産税等立替金、給湯料金、冷暖房費、駐車場料金、水道料金、修理工事代金の合計額は、別表(二)記載のとおり金二四八万九三八七円であるところ、反訴被告はこのうち別表(二)記載の各月に内金合計金四九万九一二〇円を支払ったのみで、残金一九九万〇二六七円を支払わない。

11 よって、反訴原告は反訴被告堀夕美に対し、シャトーテル管理時代の未払金一七〇万二六八七円及び反訴原告管理時代の未払金一九九万〇二六七円の合計三六九万二九五四円並びに内金一七〇万二六八七円に対する反訴状送達の翌日である昭和五七年五月二七日から、内金一九九万〇二六七円に対する反訴変更の申立書送達の翌日である昭和六〇年三月一四日から各支払済みまで、民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の事実は認める。

3 請求原因3の事実のうち、管理費の未払額ないし合計金額については争わず、その余の事実は認める。

4 請求原因4の事実は認める。

5 請求原因5のうち、冷暖房、給湯料金の定め方、及びその未払額ないし請求額は争わないが、その余の事実は否認する。本件マンションの冷暖房、給湯の各設備は、本件マンションの共用部分であってシャトーテルないし反訴原告の所有ではない。したがって、反訴被告は、シャトーテルないし反訴原告と、その主張のような契約を結んだことはない。

6 請求原因6のうち、賃料額は争わず、その余の事実は認める。

7 請求原因7の事実は認める。

8 請求原因8の事実は否認する。

9 請求原因9の事実は認める。

10 請求原因10の事実は認める。

三  抗弁

1 管理費等の支払義務について

建物の区分所有等に関する法律の適用される本件マンションのような建物においては、各区分所有者が自由に管理者を選択できないのが実情であるから、管理者が十分な管理を行わない場合は、各区分所有者が管理費の支払を拒絶する権利があるというべきである。本件マンションの管理費については、冷暖房、給湯の機械設備及び駐車場部分が本件マンションの共用部分であるのに、管理会社の所有であるとして各区分所有者ないし駐車場利用者から管理費ないし駐車場料金を徴収するなど、反訴被告入居当時から数々の問題があった。そこで反訴被告は他の居住者らと共に管理会社であるシャトーテルないし反訴原告に対し、再三これらの問題を指摘してその是正を求めたのであるが、全く聞き入れられないため、やむを得ず管理費等の支払を拒絶しているものである。

2 相殺

(一) 本訴において主張したとおり、本件マンション一階の本件駐車場部分は、構造上、利用上独立性のあるものではなく、法定共用部分もしくは規約共用部分であって、本件マンションの区分所有者の共有に属するものである。

(二) しかるに、シャトーテルないしその管理者の地位を承継した反訴原告は、右駐車場部分を駐車場として賃貸し、月額少なくとも四万円、昭和五二年六月から平成元年四月末日までの一四三か月の間に、合計金五七二万円を駐車料金名目で不当に利得している。

このうち、反訴被告の共有持分である一〇万分の三二五五に相当する一八万六一八六円が反訴被告に返還されるべき額である。

(三) よって、反訴被告は反訴原告に対し、平成元年四月二六日の本件第六六回口頭弁論期日において、反訴原告主張の支払請求権と右不当利得返還請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1は争う。

2 抗弁2のうち、相殺の意思表示があったことは認めるが、その余は否認する。

五  再抗弁

仮に、本件駐車場部分が法定共用部分であるとしても、旧黒川建設と原告堀夕美を含む本件マンションの区分所有者との間において、旧黒川建設が本件駐車場部分に駐車場設備を設置してこれを使用収益することができる旨の契約が成立している。

すなわち、本件駐車場部分は、分譲販売計画当時、区分所有部分として設計されており、旧黒川建設区分所有部分として留保することを前提としていたものであり、そのことを前提として、分譲時点で各区分所有者との間において旧黒川建設が駐車場設備を整えてこれを使用収益する旨の約定がなされた。旧黒川建設は、右約定に基づき本件駐車場部分の土地上にコンクリートを敷設して駐車場設備を構築して、本件マンションの区分所有者に駐車場として賃貸してきたものである。参加人は、昭和五七年一月一一日旧黒川建設の商号変更後のシャトーテルから右駐車場設備の所有権を譲り受け、以後駐車場設備を使用収益しているものである。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実中、旧黒川建設、シャトーテルないし参加人が本件駐車場部分を駐車場として本件マンションの区分所有者に賃貸してきた事実、及びシャトーテルから参加人への譲渡の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

(この理由中の認定判断に用いた証拠は、各認定事実の末尾掲記のとおり。)

第一本訴請求について

一  請求原因1、2、5及び7の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因3の本件各設備の所有関係について判断する。

1  請求原因3(一)のうち、(1)及び(3)の事実、並びに(2)のうち冷却塔、冷却水ポンプが屋上に設置されていることは、当事者間に争いがない。

2  証拠によれば、本件マンションの地下一階の共用部分たる機械室に設置された冷暖房、給湯の機械設備及び屋上付近の建物内に設置された送風機、コントロール機器と、専有部分たる各区分所有建物入口のメーターボックス内の計器類、冷暖房、給湯、給水用の配管とを結ぶ配管は、本件マンションの各階の構造壁に組み込まれていることが認められ、その組み込まれた配管を修理または撤去するには、相当大規模な工事を要することは、容易に推認することができる。

(以上の事実は、《証拠省略》によって認められる。)。

3  原告堀夕美は、右冷暖房、給湯の機械設備の右のような構造を理由として、それが建物の区分所有等に関する法律二条四項所定の建物の付属物として本件マンションの区分所有者の共有に属する共用部分にあたると主張する。

しかし、後掲の証拠によれば、右機械設備の中核をなす地下機械室に設置された給湯、暖房等のボイラーを初めとする機械設備は、搬出、撤去の容易な動産であって、建物の付属物といえないことは明らかであるのみならず、建物の区分所有等に関する法律に基づく本件マンションの管理規約においては、付帯設備専有部分として「冷房、暖房、給湯機械設備そのメイン・パイプ及びメーターは株式会社黒川建設(旧黒川建設)の所有設備であり、メイン・パイプより分岐したメーター以後の各区分所有者の専有部分内にある冷暖房、給湯設備(配管も含む)は、各区分所有者の所有に属する。」(二条一項二号)と定めており、当初旧黒川建設から本件原告堀夕美所有の四〇六号室を取得した訴外綜合設備株式会社の代表者石井衛は、右管理規約を承認していたものであり、原告堀夕美もまた、右管理規約を承継、承認して、訴外綜合設備株式会社から本件四〇六号室を買い受けたことが認められる(もっとも、右管理規約においても、共用エレベーター設備、受電、変電、配電設備、揚水ポンプ、排水ポンプ、受水槽、貯水槽、汚水槽、下水道孔等の給排水衛生設備等は、付帯設備共用部分として、各区分所有者の共有とする旨定めている(二条二項二号)が、原告堀夕美主張の冷暖房、給湯の機械設備の中にこれらの付帯設備共用部分とされているものが含まれていないことは、弁論の全趣旨から明らかである。)。

(以上の事実は、《証拠省略》によって認められる。)

したがって、いずれにせよ、本件マンションの冷暖房、給湯の機械設備が、建物の区分所有等に関する法律二条四項所定の共用部分たる建物の付属物であるとする原告堀夕美の主張は理由がない。

なお、原告堀夕美は、本件マンションが集中冷暖房給湯システムを備えたものとして設計施工され、販売されたものであり、各区分所有者にとって右各設備が日常生活上必要不可欠であるという、その機能を根拠に、本件各設備が共用部分たる建物の付属物であると主張する。しかし、本件各設備が各区分所有者にとってそのような機能、利便をもつとしても、そのことと本件各設備の所有関係とは別個の問題であるから、右の原告堀夕美の主張は採用できず、他に、原告堀夕美の右各設備に関する主張を認めるべき証拠はない。

4  以上のとおり、本件各設備が建物の付属物たる共用部分であることを前提に、その共有持分権の確認を求める原告堀夕美の本訴請求は理由がない。

三  請求原因4の本件駐車場(ピロティ)部分の所有関係について判断する。

1  当事者間に争いがない事実及び後掲の証拠によれば、次の事実が認められる。

旧黒川建設は、本件駐車場部分について、当初は区分所有の対象となる居住部分として建築確認を得ていたが、その後、地下の九台分の駐車場だけでは自動車を保有する分譲希望者の需要に応じられないと判断して、本件駐車場部分及びその向かって右側の後記自転車置場部分(以下において、別紙図面斜線部分の本件駐車場部分と右自転車置場を含めて「本件駐車場」ということがある。)を用途変更して駐車場及び自転車置場に利用することとし、分譲の対象から除外して、駐車場利用者からは駐車料金を取ることとした。そして、当初の分譲契約においては、本件マンションの区分所有者は、分譲者たる旧黒川建設が土地の一部に駐車設備を整えて、これを所有収益することを承認する旨を定め、また、管理規約においては、住宅部分(バルコニーを含む)、駐車場等のそれぞれ独立して区分所有権の対象となる建物部分を本件マンションの専有部分と定め(二条一項一号)、右管理規約に基づく管理細則(一五条)及び駐車場使用規則(一条)では、本件マンションの駐車場は、旧黒川建設が所有することを明示している。

(以上の事実は、《証拠省略》によって認められる。)

もっとも、管理規約二条二項一号では、「ピロティ」が建物共用部分と規定されており、本件マンションの販売用のパンフレットでは、本件駐車場部分の辺りが「ピロティ」と表示されているため、それが本件マンションの専有部分として旧黒川建設の区分所有の対象になりうるかどうかが争点となっている。

そこで、以下、本件駐車場部分の構造上、利用上の独立性、管理規約上の定めについて判断する。

2  本件駐車場部分の構造及び利用状況について

当事者間に争いがない事実及び後掲の証拠によれば、次の事実が認められる。

本件マンションは、鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付七階建の建物で、地階には地下駐車場、機械室等が、一階には正面公道側から向かって右側に本件駐車場部分、中央付近に地下駐車場への入口のスロープ、左側にエントランス、管理人室、奥の方に三戸の区分所有建物が、二階には五戸、三、四階には各六戸、五階には四戸、六階には三戸、七階には二戸の各区分所有建物があり、屋上には冷房設備の一部の冷却塔等が設置されている。

本件駐車場の向かって奥、南西側は、鉄筋コンクリートの柱と幅約六メートル四〇、高さ約二メートルの鉄筋コンクリートの構造壁によってその奥の住居部分と遮断されている。

本件駐車場部分の向かって右、北西側は、奥から入口に向かって約三メートル余の部分は同じく鉄筋コンクリートの構造壁によってその右側の壁面外部にある階段部分と隔てられ、その構造壁の手前、北東端から右へ約二・三三メートルの部分は二階の居住部分のバルコニー(各区分所有者の専有部分、以下同じ。)の床の高さまでブロック造の壁面となっており、そこから手前の入口側公道との境界にかけて、高さ約一・八〇メートルのブロック塀があって、その外側の本件マンションの居住者のゴミ容器置場と隔てられている。

本件駐車場の向かって左、南東側には、床面からの高さ約五五ないし六〇センチメートル、幅約七八センチメートルの鉄筋コンクリート製の花壇状の工作物が設置されて、椿、シュロ、ヤツデ等の花壇状の植え込みとなって本件駐車場と区分されており、更にその花壇状の植え込みの左側は、地下駐車場へ下っていく入口スロープの空間になっている。

本件駐車場に向かって手前、入口部分は、駐車場の幅の約半分に当たる幅約四メートル高さ約一・八〇メートルの開口部があり、その左右には幅六〇センチメートル四角の本件マンションを支える鉄筋コンクリート造の柱があり、その柱の上部は、本件マンションの二階の外部壁面となり、右側の柱の右外側は、前記ブロック塀までの間の開口部約二・三三メートル、奥行き約五・八メートルが概ね自転車置場として利用されている。自転車置場の入口部分の上部は二階のバルコニーとなっており、左側の柱の左外側は、前記の植え込みに続き、その上部は、二階のバルコニーとなっている。

本件駐車場部分の床は、コンクリート造であり、駐車場の入口部分の向かって前面は、奥行き約三・六メートルの共有部分たる敷地前庭を隔てて、公道に接している。駐車場部分の向かって右側、前面右側の柱の中心と奥の右側の柱の中心を結ぶ線にはコンクリート床面に細い溝状の区切りがあって、それより右側の前記ブロック塀との間約二・三三メートルの部分は自転車置場として使われており、左側の駐車場と使用状況が違っている。

本件駐車場の天井部分のうち、その大部分を占める前面の左右の二本の柱と奥の二本の柱を結ぶ鉄筋コンクリートの梁で囲まれた部分は、二階住居部分の床で鉄筋コンクリート造である。その右側前記自転車置場の上部は、概ね二階の住居部分のバルコニーの底部に当たるが、そのバルコニーの床の形状が一部丸みを帯びた曲線をなしているため、一部は前記ブロック塀より内側までしか二階バルコニー部分がなく、またバルコニー底部の高さより、右ブロック塀の高さが低いため、その隙間から降り込む雨を防ぐため、バルコニー底部とブロック塀の上部を斜めに結んで、塩化ビニール製の波板屋根が設置されている。また、前面左側の柱の左外側の上部は、概ね二階の住居部分のバルコニーの底部に当たるが、そのさらに左外側、前記花壇状の植え込み部分に、四階の天井部分まで立ち上がっているコンクリートの柱があり、右バルコニーと柱との間は、幅約三七センチメートルで四階天井まで達する吹き抜け状となっている。

本件駐車場の使用状況を見ると、向かって右側の前記自転車置場は、約二〇台の居住者の自転車置場として使われており(使用料金は取られない。)、その余の本件駐車場部分は、被告と駐車場賃貸借契約を結んだ本件マンションの区分所有者の二台の駐車場として使用されている。その床面には、自動車の駐車位置を示す白ペンキのラインが左右奥の方に描かれており、そのライン内に駐車する限り、駐車場の入口から奥へ三メートル前後の部分は、空きスペースとなる。

このほか、鉄筋コンクリートの天井のある駐車場部分の向かって右奥隅には、床から天井にかけて、冷暖房用の配管(これは、前記認定のとおり旧黒川建設の所有)のほか、共用設備である通気管、排水管等の配管がむき出しで設置されており、向かって左側奥隅上部及び手前隅上部には、二階バルコニー底面と駐車場の梁を結んで二か所に短い配管が露出しているが、いずれも、メーターなどは設置されておらず、通過経路としての配管であるに過ぎないので、その点検等のために日常的に本件駐車場部分に立ち入る必要はない。

また、本件駐車場の前面、公道に面した前記敷地共用部分のコンクリート地面には、消火用給水栓、排水口、油点検口などの蓋が設置され、入口向かって左側の柱の下部脇には、冷暖房用の給油口が設置されているが、いずれも本件駐車場の外側にあって、本件駐車場に立ち入らずに使用することができる。

(以上の事実は、《証拠省略》により認められる。)

右認定の事実によれば、本件駐車場は、向かって左右及び前面に隔壁がなく柱のほかには建物の駆体部分が存在しない吹き抜け状になってはいるが、奥及び天井の主要部分、並びに床は鉄筋コンクリートで他の建物部分と明確に区分され、前面は柱及び本件マンションの外壁により外部の空間と区分されている。左側は、下部は床面及びコンクリート製の花壇状の植え込みの内法により他の部分と区別されており、上部は前記幅三七センチメートルの吹き抜けがあって、駐車場の空間の範囲がやや不明確であるが、天井及び二階バルコニーの底面により、他の部分との区分は一応可能である。また、右側は、下部は床面及び前記ブロック造の塀により、外部と区分されており、上部は前記自転車置場の上部の塩化ビニール製の波板屋根の付近に空間があって、駐車場の空間の範囲がやや不明確であるが、前記ブロック塀と二階バルコニーの底面により、外部との区分は一応可能である。

ところで、前記認定のとおり、本件駐車場がその一部に自転車置場を含むものの、大部分は駐車場として利用されていることを考慮すれば、住居部分と同じ程度にその範囲が明確である必要はなく、建物の部分として独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断されている限り、建物の区分所有等に関する法律一条にいう構造上他の部分と区分された建物部分というを妨げないと解せられるところ、少なくとも、本件駐車場は、前面は左右の柱の外面を結ぶ線、奥は鉄筋コンクリートの構造壁まで、左側はコンクリート製の花壇状の植え込みの内法の線、右側は、少なくとも二階バルコニーの底面を垂直に下ろした線で囲まれた範囲の床面並びにその天井高(バルコニー底面)までの上部空間の範囲において、駐車場としての範囲が画されていると認められるのであって、左右の上部空間の一部に範囲の不明確な部分があるにしても、少なくとも、争点となっている別紙図面斜線部分の本件駐車場部分は、なお、本件マンションの建物の一部として、建物の区分所有等に関する法律一条にいう構造上の独立性を有すると認めるのが相当である。

そして、本件駐車場部分には、そのごく一部に共用設備たる配管等が設置されているものの、その点検等のために日常的に本件駐車場に立ち入る必要はなく、他方、本件駐車場部分の前面開口部は、本件駐車場部分の専用の出入口として外部に通じており、本件マンションの他の区分所有者の住居部分の出入口(エントランス)は別に存在していて、本件駐車場の出入口を利用する必要がなく、また住居部分に通じる構造にもなっていないことは、前記認定のとおりである。

したがって、本件駐車場部分は、利用上も独立性を有するものと認めて差し支えなく、前記構造上の独立性とあいまって、建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権の対象になりうるものと解するのが相当である。右認定と異なり、原告堀夕美主張のように、本件駐車場部分が同法にいう共用部分に当たるものと認めるべき証拠はない。

もっとも、本件駐車場部分の右側幅約二・三三メートル奥行き約五・八メートルの部分は、前記のとおり自転車置場となっており、検証の結果によれば、その自転車、特に奥の方に停める自転車の出し入れには、本件駐車場の前面右側の柱と前記右側のブロック塀との間の幅約一・九三メートルの開口部だけでは不自由で、駐車場の出入口を利用することもあるものと推認できる。しかし、そもそも右自転車置場は、前記認定事実、参加人代表者の尋問の結果、検証の結果並びに弁論の全趣旨によれば、そのほとんどが本件駐車場部分と共に旧黒川建設以来その専有部分に属するものと認められるところ、旧黒川建設が本件マンションの分譲開始以来、その部分を本件マンションの各区分所有者及びその家族の利便のため、自転車置場として提供してきたに過ぎないものと認められる上、駐車場の開口部から奥行き三メートル前後は、自動車の出入りの際以外は空きスペースとなっていること前記認定のとおりであるから、駐車場の出入口を自転車の出し入れに利用することがあるとしても、本件駐車場部分の駐車場としての利用にさしたる障害はなく、本件駐車場部分が区分所有権の対象となりうる本件マンションの専有部分であるとすることの妨げとはならない。

3  管理規約上の定めについて(請求原因4(三))

前記のとおり、本件マンションの管理規約(二条二項一号)では、「ピロティ」が建物共用部分と規定されており、他方、本件マンションの販売用パンフレットでは、本件駐車場の辺りが「ピロティ」と表示されている。しかし、《証拠省略》によれば、本件駐車場は、当初専有部分としての居住区画として建築確認を得ていたが、その後設計変更をして、これを駐車場及び入居者の自転車置場に利用することとして、本件マンションを完成して売り出し、現に本件駐車場部分とその右側の部分は、当初から旧黒川建設所有の駐車場及び自転車置場として利用されていること、本件マンションの販売用パンフレットの右「ピロティ」の表示は、三方に壁がないその部分の建物の構造に着目して表示されたものに過ぎず、管理規約上は、「駐車場」はむしろ「専有部分」として明確に規定されていること(二条一項一号)が認められる。したがって、本件駐車場部分が、右管理規約において共用部分とされる「ピロティ」に当たらないことは明らかであり、他に、原告堀夕美主張のように、本件駐車場部分が、規約上の共用部分であることを認めるべき証拠はない。

4  以上のとおり、本件駐車場部分が本件マンションの共用部分であるとして、原告堀夕美が共有持分権を有することの確認を求める原告堀夕美の本訴請求は理由がない。

四  請求原因6、抗弁及び再抗弁の給湯停止関係について判断する。

1  請求原因6(一)のうち、シャトーテルが、原告堀夕美に対する給湯を、昭和五五年二月一二日ころから同年七月末ころまで停止したことは、当事者間に争いがない。

抗弁1の事実は当事者間に争いがなく、同2の事実は概ね当事者間に争いがない。

2  そこで、再抗弁について判断する。

原告らは、管理費等の支払拒絶の正当性を主張するが、それが理由のないものであることは、後記反訴に対する抗弁において判示するとおりである。

原告らは、また、本件管理規約の無効を主張するが、本件マンションの居住者にとって、給湯、冷暖房の供給が不可欠であるとしても、その利用の対価として管理費等を支払うべき義務を負うのは当然であり、その支払を拒む正当な理由があるとすれば、その理由を法的に明確に主張し、後に不当利得としてその返還を求める等の手段に出ることが可能であるから、管理者が、給湯等の利用について管理の委任を受けた区分所有者との間で、管理費等の不払いに対抗する手段として、暖房、給湯等の供給を停止することができる旨を約定することが、直ちに公序良俗に反し、又は自力救済と同視すべきものであるということはできない。原告らの右主張は採用できない。

そこで、権利濫用の抗弁について判断するに、後掲証拠によれば、次の事実が認められる(一部、当事者間に争いがない事実を含む。)。

原告堀夕美は、前記二3認定のとおり、建物の区分所有等に関する法律に基づく本件マンションの管理規約を承継、承認して本件四〇六号室を買い受けた。右管理規約に基づく管理費等の算出は、水道、ガス、給湯料金は個別メーターによって把握される使用実績に応じて前月使用分を翌月に請求し、同月二七日限り支払う定めであるが、管理費、冷暖房費は、使用の有無、使用量にかかわらず、専有面積を勘案した定額方式(冷暖房費は、本件マンションで供給するシーズン月間のみ。)で、その請求、支払方法は、右と同じである。原告堀夕美は、昭和五二年二月に入居したが、間もなく四〇六号室のバルコニーの塗装、サッシ窓の不備、台所の水漏れ等について、当時旧黒川建設から委託を受けて本件マンションの管理に当たっていた株式会社シャトー管理との間でトラブルが生じ、原告堀夕美は、これを理由に同年六月から翌昭和五三年五月までの間の管理費を現在に至るまで支払っていない。原告堀夕美に対する冷暖房費の請求は、株式会社シャトー管理の事務処理上のミスから、原告堀夕美の入居後約一年は請求がなされず、昭和五三年三月から請求されるようになった。原告堀夕美は、冷暖房費が高過ぎる上、使用しないでもこと足りるものを定額で請求されることに疑問を持ち、また同年一〇月ころから本件マンションの入居者の自治会ができて、管理会社と管理費、冷暖房給湯等設備関係費用の積算根拠、支出明細等を巡って話し合いが行われていたため、右当初の管理費の他昭和五三年三月以降の冷暖房費も支払を拒絶していたところ、株式会社シャトー管理は、当時管理費等を滞納していた何人かの入居者に対し、その支払を督促し、あらかじめ警告を発した上で、原告堀夕美に対しては昭和五四年末ころ、四〇六号室玄関前の専有部分に属するメーターボックス内のバルブを閉めて給湯を停止した。原告堀夕美を除く入居者は管理費等を支払って給湯を再開させたが、原告堀夕美は、右管理費等を支払わないまま、自らドライバーを使ってバルブを開けて給湯が受けられるようにした。株式会社シャトー管理は、昭和五五年一月、原告堀夕美に対し、同月二五日までに右管理費等を支払うよう督促し、その支払がないときは給湯を停止する旨を書面で伝えた上、昭和五五年二月一二日に、再度右メーターボックス内のメーターを除去するなどして給湯を停止したところ、原告堀夕美は、同月一九日ころ、業者に依頼して湯が出るように工事をしたが、株式会社シャトー管理は、翌日また給湯停止の工事をした。その後、株式会社シャトー管理は、同年四月五日ころ、原告堀夕美に対し、冷暖房供給の元バルブを閉めて封印し、時々点検すること、及びそれまでの冷暖房費等の未払い分については別途話し合いをすることを条件として給湯を再開したいと申し入れたが、原告堀夕美は、別途個人用の湯沸設備を設置するなどの方法を検討しつつ弁護士を依頼して管理会社と話し合い、調停の申立てをした結果、ようやく同年七月末に至って、給湯が再開された。この間五か月余にわたり、原告堀夕美、その夫の原告サンチャゴ・ヴァルデマルと原告堀夕美の七五歳の母親は、風呂、シャワーが使えず、ガスコンロ一つで炊事等をせざるを得ず、日常生活に不自由をきたした。なお、本件マンションは、シャトー松尾と称した旧建物を全面改築した建物であるところ、シャトー松尾時代から引き続き入居している者のうち七戸ほどは、本件マンション完成後も冷暖房の供給を断ったため、当初から各専有部分に冷暖房設備を設置せず、冷暖房の供給を受けていない。また、原告堀夕美は、本訴提起後の昭和五九年一〇月中旬ころ、四〇六号室内の冷暖房供給設備を自己負担で撤去し、そのことは、そのころ参加人の知るところとなったが、参加人もこれを黙認し、同月分(一一月に請求する。)以降の冷暖房費は請求しなくなった。

(以上の事実は、《証拠省略》により認められる。)

右認定の事実によれば、原告堀夕美に対する給湯停止の措置は、管理規約に基づくもので、あらかじめ管理費等の支払を督促し、給湯停止措置に出ることを警告した上で行われたものではあるが、給湯という日常生活に不可欠のサービスを停めるのは、諸経費の滞納問題の解決について、他の方法をとることが著しく困難であるか、実際上効果がないような場合に限って是認されるものと解すべきである。本件において、原告堀夕美の不払いの最大の原因となっていた冷暖房費については、現に旧シャトー松尾時代からの入居者七戸ほどに対しては、その意向に沿って冷暖房の供給をしていないのであり、冷暖房設備の撤去工事も、後に原告堀夕美がみずからしたように、他の区分所有者への供給とは切り離して、比較的容易にすることができたのであるから、管理会社である株式会社シャトー管理ないし旧黒川建設としては、昭和五五年四月五日より前、給湯停止前に、冷暖房の供給停止を条件に、それまでの管理費及び冷暖房費の滞納分の支払を求める交渉をしてしかるべきであった。その上、株式会社シャトー管理の事務処理上のミスから、原告堀夕美の入居後約一年を経て冷暖房費の請求がなされるようになったことが、原告堀夕美に管理会社に対する不信感を抱かせる原因となったことが容易に推認できるから、株式会社シャトー管理の原告堀夕美に対する対応は適切を欠いたもので、本件給湯停止の措置は、権利の濫用に当たるものといわざるを得ない。原告らのこの点の抗弁は理由があり、本件給湯停止の措置は、原告らに対する不法行為となるというべきである。

3  原告らの損害額について判断するに、前記認定の本件給湯停止に至る経緯、給湯停止の期間、原告らが日常生活上受けた不便、不自由さ、不愉快さと、他方において、原告らも他に適当な解決方法があり得たと思われるのに、管理費の支払まで拒むなどいささか意地を張り過ぎたきらいがあること等一切の事情を考慮し、原告らに対する慰謝料の額は、各金三〇万円をもって相当とする。請求原因7の参加人の承継の事実は、当事者間に争いがないから、参加人は原告らに対し、それぞれ金三〇万円及びこれに対する本件給湯停止の不法行為の後である昭和五六年八月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

さらに、原告サンチャゴ・ヴァルデマルは、本件給湯停止のトラブルの対応と心労のため、約三週間自宅での翻訳の仕事が手につかず、そのため得べかりし翻訳料収入を失ったと主張し、《証拠省略》中には、右主張に沿う供述がみられる。しかし、そのような事実があったとしても、それは、本件給湯停止の不法行為と相当因果関係のある損害とは直ちにいえず、他にこれを認めるべき証拠はないから、原告サンチャゴ・ヴァルデマルの右請求部分は理由がない。

第二参加請求について

参加の理由1のうち、脱退被告シャトーテル(旧黒川建設)から参加人への権利譲渡及び参加人による承継の事実は、当事者間に争いがない。そして、本件マンションの冷暖房、給湯の機械設備等及び本件駐車場部分が本件マンション建築(改築)当初から旧黒川建設ないし脱退被告シャトーテルの所有に属するものであることは、先に本訴請求について判示したとおりである。したがって、参加人は、その所有権を譲り受けたものと認められるから、参加請求のうち、本件マンションの冷暖房、給湯の機械設備等及び本件駐車場部分の所有権確認を求める参加人の請求は、理由がある。

また、参加人の原告らに対する損害賠償債務は、本訴請求について判断したとおり、各金三〇万円及びこれに対する遅延損害金の限度であって、これを超えては存在しないから、参加人の債務不存在確認請求は、その限度で理由があり、その余は失当である。

第三反訴請求について

一  請求原因1ないし10のうち、請求原因5の冷暖房、給湯の供給契約締結の事実及び請求原因8の修理工事関係の事実を除いては、当事者間に争いがない。

右請求原因5の冷暖房、給湯の供給契約の事実については、第一、本訴請求についての二及び四における認定事実と《証拠省略》によれば、反訴被告堀夕美は、冷暖房、給湯の供給及びその費用の支払等についての定めを含む本件マンションの管理規約を承継、承認して本件四〇六号室を買い受けたものであるから、これにより、本件マンションの管理会社であるシャトーテルないし反訴原告との間で冷暖房、給湯の供給に関する契約を結んだものと認められ、この認定に反する証拠はない。

また、請求原因8については、《証拠省略》によれば、請求原因8のとおりの事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

二  そこで、抗弁について判断する。

1  まず、反訴被告は、管理費等の支払拒絶の権利があると主張するが、その前提とする冷暖房、給湯の機械設備等及び本件駐車場部分が、本件マンションの共有部分であるとする点が理由のないものであることは、本訴請求について判断したとおりであるのみならず、管理会社の管理が不適当であるからといって、管理費等の支払を拒絶する権利があるという主張は独断であって、到底採用することができない。

2  相殺の抗弁も、本件駐車場部分が共用部分であることを前提としており、前記認定のとおり、その余の判断を加えるまでもなく理由がない。

三  以上によれば、反訴請求は、すべて理由があり、反訴被告堀夕美は、反訴原告に対し、合計金三六九万二九五四円及び内金一七〇万二六八七円に対する弁済期後の昭和五七年五月二七日から、内金一九九万〇二六七円に対する弁済期後の昭和六〇年三月一四日から各支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第四結論

以上の次第で、本訴請求については、原告らに対し、各金三〇万円及びこれに対する前記遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、認容し、その余の請求は失当として棄却し、参加請求は、所有権確認についてはすべて理由があるから認容し、債務不存在確認については、右本訴で認容した債務を超える部分は理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、反訴請求については、すべて理由があるから認容し、訴訟費用の負担については、本訴、反訴及び参加請求を通じて、民訴法第八九条、九二条、九三条一項ただし書きをそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井史男)

<以下省略>

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